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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)130号 判決

一 請求の原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。

1 前記当事者間に争いのない本件審決の理由の要点によれば、本件審決は、一九七五年一二月九日にアメリカ合衆国特許商標庁から発行された「OFFICIAL GAZETTE」をもつて、意匠法三条一項三号に規定する刊行物とし、本願意匠は同刊行物に記載された登録第二三七九八三号の意匠(即ち引用意匠)と類似し、したがつて本願意匠は同法三条一項三号に規定した意匠に該当し意匠登録を受けることができないとしているものであることは明らかである。

ところで、「OFFICIAL GAZETTE」と「U・S・P・Design」は、ともにアメリカ合衆国特許商標庁から発行されたもので、「OFFlCIAL GAZETTE」は「U・S・P・Design」の抄録であること及び引用U・S・P・D・はアメリカ合衆国意匠登録第二三七九八三号の意匠を表す全図面を掲載しているのに対し、引用O・G・は、右登録第二三七九八三号の意匠を表す図面のうち代表的なもの一つだけを掲載したものであることは、当事者間に争いがない。そして、原本の存在及び成立に争いのない甲第四号証によれば、引用U・S・P・D・のFIG・2(正面図)とFIG・4(右側面図)、また、FIG・2(正面図)とFIG・1(平面図)及びFIG・3(底面図)とは、デインプルの配列において明瞭な差異が存在することが認められる。そうすると、引用O・G・だけでアメリカ合衆国意匠登録第二三七九八三号の意匠全体の要旨を認定し得ると即断することはできず、これに反する被告の主張は採用できない。

しかも、本件においては、後記のとおり、本願意匠と引用U・S・P・D・に記載された意匠とが類似しているとはいいきれないのである。

そうであつてみれば、本件出願に対しては、本願意匠と対比すべき意匠は引用O・G・に記載された意匠(即ち引用意匠)ではなく、登録第二三七九八三号の意匠を表す全図面を掲載している引用U・S・P・D・に記載された意匠でなければならなかつたというべきである。したがつて、本件において引用すべき意匠法三条一項三号に規定する刊行物としては、「OFFlClAL GAZETTE」ではなく「U・S・P・Design」でなければならなかつたというべきであり、その意味で本件審決は、引用すべき刊行物の選択を誤つたといわなければならない。そして、本件審決の右誤りが、本件審決の結論に影響を及ぼさないとはいいきれないので、本件審決は違法として取消を免れないものである。

なお、被告は、原告が本願意匠と対比すべき意匠を記載した刊行物は「U・S・P・Design」でなければならない旨主張するところ、これを前提とする引用U・S・P・D・と対比しての非類似の主張及び甲第四号証の提出は、審査、審判を通じてなされておらず、本件訴訟において初めてなされたものであるから、対比すべき意匠を記載した刊行物が前記のとおりでなければならない旨の右主張は時機に後れたものである旨述べるが、成立に争いのない甲第五号証によれば、右甲第五号証は昭和六一年二月一八日付の原告作成の意見書であつて、既に本件の審査手続において提出されたものであること、右意見書には、引用意匠が登録第二三七九八三号の意匠にかかるものであること、本願意匠は右登録第二三七九八三号の意匠とは大きく異なる旨記載されていることが認められるところ、右登録第二三七九八三号の意匠が記載された「OFFICIAL GAZETTE」は「U・S・P・Design」の抄録であることは当業技術者の常識に属することは当事者間に争いがない。そうであれば、右意見書の右記載は、引用U・S・P・D・に基づく主張を含んでいるということができ、即ち本願意匠と対比すべき意匠を記載した刊行物は「U・S・P・Design」でなければならない旨の主張をしているものと解するのが相当であり、右意見書(甲第五号証)が本件の審査段階で提出されたことは前叙のとおりであるから、原告の前記主張が時機に後れたものである旨被告が述べるところは、前記被告が述べるような意味での主張として許されるものかどうかを検討するまでもなく、失当である(なお、甲第四号証が審査ないし審判手続において提出されていないことは、右判断を左右するものではない。)。

2 被告は、本願意匠も引用U・S・P・D・に記載された意匠も大半のデインプルが隣のデインプルと接している以上、本願意匠と引用意匠のデインプルが輪郭をほぼ接する程度に密に形成しているとした本件審決の認定に誤りはない旨主張するが、成立に争いのない甲第二号証(本願願書)及び前掲甲第四号証(引用U・S・P・D・)によれば、デインプルの配列において、引用U・S・P・D・のFIG・2(正面図)と本願意匠の正面図との間には、明瞭な差異は認め難いけれども、引用U・S・P・D・のFIG・1(平面図)、FIG・3(底面図)及びFIG・4(右側面図)には中央に平滑な帯状部の存在が明瞭に認められるのに対し、本願意匠の平面図及び右側面図(したがつて底面図及び左側面図)における中央の平滑な帯状部の存在は明瞭ではないこと、引用U・S・P・D・のFIG・1(平面図)、FIG・3(底面図)及びFIG・4(右側面図)においてはデインプルの配列がやや疎に配列されている印象を看者に与えるのに対し、本願意匠の平面図及び右側面図(したがつて底面図及び左側面図)においてはデインプルの配列が引用U・S・P・D・の右各図面に比し密に配列されている印象を看者に与えることが認められる。そうすると、デインプルの配列において、本願意匠も引用U・S・P・D・の意匠もデインプルが輪郭をほぼ接する程度に密に形成しているということはできず、結局、本願意匠と引用意匠のデインプルが輪郭をほぼ接する程度に密に形成しているとした本件審決の認定に誤りがないとはいいきれないといわざるを得ない。

また、被告は、仮に原告主張のとおりデインプルの列の数が相違するとしても、それは、目を凝らして数えて初めて気がつく程度のものであり、デインプルの配列方法及び正面(背面)に表れるデインプルを除いた平滑面の態様の共通性が類否判断を支配する主要部と認められるから本願意匠と引用U・S・P・D・の意匠とは全体としてみれば類似する旨主張するところ、本願意匠及び引用U・S・P・D・の意匠に係る物品はゴルフボールであることは当事者間に争いがなく、しかして、ゴルフボールにおいては、その主たる需要者はゴルフプレーヤーであり、ゴルフプレーヤーは、ゴルフボールを購入する際及びプレーをする際にはゴルフボールを手に取つても見るものであり、また、ゴルフボールを選択する際には、ゴルフボールのデインプルの大きさ及び配列に大きな関心を持つものであることも当事者間に争いがない。そうであれば、デインプルの配列方法の共通性及び正面(背面)に表れるデインプルを除いた平滑面の態様の共通性が、仮に認められるとしても、本願意匠及び引用U・S・P・D・の意匠の要部と即断することはできないから、右被告の主張は採用できない。

更に、被告は、引用U・S・P・D・のFIG・1、FIG・3及びFIG・4にみられる中央の平滑な帯状部は、成形型の繋ぎの部分であつて従来よりゴルフボールにはみられるものであり、特別に看者の注意を惹くものではないから類否判断に影響を及ぼさない微差である旨主張するが、前叙のとおり、本願意匠にみられる前記平滑な帯状部と引用U・S・P・D・に記載された意匠にみられる前記平滑な帯状部とはその意匠に係る形態に表れた明瞭性が明らかに異なるものであることが認められるから、看者の注意を惹くものではないとはいいきれないので、被告の右主張も採用の限りでない。

以上のとおり、本願意匠と引用U・S・P・D・の意匠とが類似しているとはいいきれないといわなければならない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるのでこれを認容する。

〔編注1〕本件特許庁における手続の経緯および審決の理由の要点は左のとおりである。

一 原告は、昭和五八年一一月三〇日、意匠に係る物品を「ゴルフボール」とし、別紙(一)に示されたとおりの意匠(以下、「本願意匠」という。)につき、一九八三年(昭和五八年)五月三一日にアメリカ合衆国においてした意匠登録出願に基づく優先権を主張して意匠登録出願をしたところ、拒絶査定を受けたので、昭和六一年九月一八日、審判の請求をした。特許庁は同請求を同庁昭和六一年審判第一九三五五号事件として審理し、昭和六三年二月四日「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴期間として九〇日を附加)との審決をし、その謄本は、同年三月二日原告に送達された。

二 本件審決の理由の要点

1 本願意匠は、意匠に係る物品を「ゴルフボール」とし、形態を別紙(一)に示すとおりとしたものであり、一方、一九七五年一二月九日にアメリカ合衆国特許商標庁から発行された「OFFICIAL GAZETTE」に記載されたアメリカ合衆国意匠登録第二三七九八三号の、意匠に係る物品を「ゴルフボール」とする意匠(以下、「引用意匠」という。)の形態は、別紙(二)に示すとおりとしたものである。

2 両意匠の対比

(一) 両意匠は、意匠に係る物品が一致すると認められる。

(二) 両意匠は、全体を球状とし、表面に浅い凹面状の円形デインプルを規則的に配列形成した基本的構成態様において共通し、各部の具体的構成態様においても、表面にほぼ三個分のデインプルに相当する面積の部分を平滑面とし、この内側中央に、一列のデインプルを挟んで、デインプル一個相当の平滑面を形成している点及びデインプルの配列において放射状を基本とし、デインプルの輪郭がほぼ接する程度に密に形成している点が共通しているものと認められる。一方、両意匠は、具体的構成態様において、全体に対するデインプルの大きさに差異が認められる。

3 両意匠の類似性

(一) 前記共通点、差異点を総合し、両意匠の類否を全体として考察すると、両意匠は、デインプルの全体に対する大きさに差異がみられ、結果としてデインプルの総数が相違するとしても、大きさの差異は、意識を集中してみてはじめて気がつく程度のものであつて、類否判断を左右しない微差と認められる。

(二) これに反して、両意匠が共通するとした基本的構成態様及び具体的構成態様のうち、とりわけ、デインプルの配列及び平滑面の態様は、両意匠の形態の基調をなすものであり、最も強く看者の注意を惹くところであつて、類否判断の主要部と認められる。

(三) 以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、類否判断の主要部において共通するものであるから、前記差異があつたとしても全体として類似するものというほかはない。

4 したがつて、本願意匠は、意匠法三条一項三号に規定した意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙(一)

説明 背面図は正面図と、左側面図は右側面図と底面図は平面図と、それぞれ同一につき省略する。

<省略>

別紙(二)

<省略>

別紙(三)

<省略>

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